隊舎の横は広場になっていて、日頃は武術修練の場になっている
その広場の真ん中にシャイナリスが進むと、デラの兄弟戦士は顔を見合わせてどちらが先に異国の戦士に相対するか、短い葛藤を経て兄のロンティンがゆっくり進み出た
シャイナリスは愛用の長剣の代りに、ほぼ同じ長さと重さの堅い木で出来た木剣を肩に担いで、ロンティンが広場に入って来るのを見守っている
と〜ん、と〜んと、ロンティンが木槍を右手に構えて、軽やかにジャンプを繰り返し始める
最初にロンティンの村を訪れたときにも、このリズムは見ている
そのときは、単調なリズムの繰り返しに緊張が保てなくなった瞬間に、木槍がシャイナリス目がけて飛んで来て、かろうじて避けたものの、脇腹に当って勝負が付いた
もっともロンティンは、もっとまともに当てる積りで投げたので、脇腹にかすり傷を負わせただけでは、槍を投げてしまった自分に、その後の勝ち目が無いことを理解して、自分の負けだと潔く認めた
その時以来、シャイナリスとロンティンは異人種ながら、互いに尊敬しあえる友を得たのだった
今日、試合用の木槍を携えて隊舎を訪れたのは、その解決法を見出したからだろうとシャイナリスは読んでいたし、こちらにも穂先の異様に長い槍への対処法があることを教えてやろうと考えていた
そんなちょっとしたシャイナリスの隙を見出したか、ロンティンのリズムが乱れた
来るぞ、って思う前にシャイナリスは右に動きながら、目の前に突き出された木槍を木剣で強く打ち払う
その衝撃は鬣のシンバ(ライオン)が、突き出した槍を払いのける力に似ているが、少しからめ取ろうとする動きが入っているのは、人ならではだ
ロンティンは槍を強く持って、木剣の回転運動に逆らうように少し捻りながら、大きく上に跳ね上げた
その動きも予測していたシャイナリスが、ロンティンの槍の動きに強く合せて、上に跳ね上げると、木槍はロンティンの手を離れて宙に舞った
「ヤラレタッ!」と、デラの言葉でロンティンが大きな声を出し、続いて大きく笑った
「ニイサン、ツギ、オレ」弟が、続いてシャイナリスと手合せしたい様子をありあり見せて、兄に頼む
「ああ、弟と手合せしてやってくれ。シャイナリ」ロンティンが、次の勝負をシャイナリスに頼む
笑顔で大きく頷いたシャイナリスは「タムラン、槍をしっかり持ってろよ!」と、アルルギアの言葉で声を掛けたが、タムランには届いていない
タムランも兄のようにぴょんぴょんとリズムを刻み始めるが、じきに闘気を漲らせると木槍をシャイナリスの胸元目がけて、さっと投げた
タムランの眼の動きで予め予測していたシャイナリスは、余裕を持って飛んで来た槍を木剣で捌いたが、次の瞬間、思いがけず腰の山刀風の木剣を持って、間合いを詰めて来た連続攻撃に一瞬本気を見せて、木剣で強く弾くと同時に、タムランの脇腹に一撃見舞った
「うっ」と呻いて、脇腹を押えて地に転がった若い戦士に「すまん、強く当てちまった」とシャイナリスが謝ると同時に、兄が「タムラン、ヤリヲ、テバナスンジャナイ!」と兄の怒声が飛ぶ
「俺たちデラの戦士は、一撃必中のとき以外は、槍を投げない」シャイナリスに向かって、兄が悪びれると「いやあ、人間相手なら、今の連続攻撃は効果があるだろう」とシャイナリスは笑顔で言い、タムランが起き上がるのを待っている
兄弟が今の試合について、あれこれ話し合っている間、シャイナリスは肩に木剣を担いで、にこにこして二人を見守っている
その後、従者のキャシスが用意してくれた肉と酒で、三人は今日の試合内容について、様々な意見を交わした
兄弟の父の父の時代は、デラの戦士は鬣のシンバと闘うだけで勇者を証明できたが、今では人の戦士と闘って勝利することの方が、より立派な勇者と称えられるようになっていると、ロンティンがぽつりと話す
「俺たちだって似たようなものさ。ただ、俺たちの国では戦うことが仕事の軍隊があり、その軍隊を指揮して敵の軍隊を倒す方法を考えている視況司って言う連中もいるんだ」やや複雑な感情を交えつつ、シャイナリスが、兄弟にぼやく
2025年03月27日
2025年03月12日
黄金剣のジャミカル25 剛剣のシャイナリス(1)
アルルギア帝国の東の要衝“東都キヌラ”は、カリブラ大平原の南部にあり、周囲に比べればやや小高い平たい台地の大部分を占め、その都市圏は日増しに拡大している
一番人が集まっていて賑やかなのが“ドムダム交易広場”で、周囲に広がっているカリブラ大平原で暮らすデラ族やガムル族の男や女が、動物の肉や毛皮、小川や池で獲れる魚やエビなどを持ち込んで、キヌラ外辺で採れる小麦や、帝都アトランティカから運ばれる塩や布と交換していく
デラ族もガムル族も黒い人という意味では同じだったが、基本温厚で友好的なデラ族は、アルルギア帝国人とも打ち解け易く、それより勝ち負けを第一に行動するガムル族は、口数も少なく商売下手であった
外観上の違いと言えば、温和なデラ族の方がほっそりしていて、気難しいガムル族は筋肉質で、デラ族よりやや背が低いこと。しかし、アルルギア人に比べれば、どちらも平均身長は高く運動能力も優れている
一等勇士のシャイナリス・グフタスは、強い日差しを遮っている薄汚れたテントの下で、テーブルの上を歩いている赤い大きなアリを眺めていた
こいつに噛まれると結構痛いのだが、どこか自分たち武征軍に似ているところがあるような気がして、潰すことも払いのけることもせず、どこに行くのか見守っている
「シャイナリス様」背後から声を掛けたのは、腹心の部下キャシス・カプラーンだ
男にしてはやや高い声質だが、優しさを感じさせるこの声をシャイナリスは好んでいた
「隊舎にロンティン様がいらしております」ロンティンは、デラ族の獅子狩り勇士であり、酋長ポントンの跡を継ぐ者と言われている重要人物であった
シャイナリスはゆっくりと立ち上がると、キャシスに続いて隊舎の方に歩み出す
帝都アトランティカでは、剛剣のシャイナリスの渾名で呼ばれることが多いが、この土地の蛮族には黒獅子のシャイナで通っている
シャイナリスの所属する武征軍キヌラ駐屯第1中隊の隊舎は、東都キヌラをぐるりと囲む石造りの防壁の南西にあり、南北の大門を守るように第2中隊の隊舎が、北東にある
ロンティンは律儀に隊舎の入口に立っており、傍らに弟のタムランもいる
デラ族の戦士らしく、二人は長身の自分たちよりさらに長い2ダート半もある長穂の槍と、同じ長さの黒褐色の棒を持ってきている
それを見たシャイナリスは、この兄弟は今日もまた模擬試合に来たんだなと思って、にやっと笑った
黒髪に黒い瞳、頬から顎にかけて黒いひげを生やしたシャイナリスは、デラの二戦士に負けず劣らずの1.9ダートの長身を誇る
デラの戦士とはっきり違うのが、肌の色以上に分厚い胸板と、筋肉が盛り上がっている腕や脚だ
比べるとロンティンは、背丈こそシャイナリスを上回っているものの、全身はスマートであり黒く輝く手足もほっそりしている
弟のタムランは、デラの男の平均身長よりやや高いが、兄に比べると一層ほっそりしている
さらに目立つ槍は、長穂と言われる通り槍全体の1/3ほどが、鋭利な穂先になっている
彼らが持って来た試合用の黒褐色の木槍も、穂先に相当する部分は表皮を削って白い木肌を見せている
シャイナリスの笑顔を見た兄弟は、黒い肌に引き立つ白い歯をにかっと見せて、親愛の情を示す
一番人が集まっていて賑やかなのが“ドムダム交易広場”で、周囲に広がっているカリブラ大平原で暮らすデラ族やガムル族の男や女が、動物の肉や毛皮、小川や池で獲れる魚やエビなどを持ち込んで、キヌラ外辺で採れる小麦や、帝都アトランティカから運ばれる塩や布と交換していく
デラ族もガムル族も黒い人という意味では同じだったが、基本温厚で友好的なデラ族は、アルルギア帝国人とも打ち解け易く、それより勝ち負けを第一に行動するガムル族は、口数も少なく商売下手であった
外観上の違いと言えば、温和なデラ族の方がほっそりしていて、気難しいガムル族は筋肉質で、デラ族よりやや背が低いこと。しかし、アルルギア人に比べれば、どちらも平均身長は高く運動能力も優れている
一等勇士のシャイナリス・グフタスは、強い日差しを遮っている薄汚れたテントの下で、テーブルの上を歩いている赤い大きなアリを眺めていた
こいつに噛まれると結構痛いのだが、どこか自分たち武征軍に似ているところがあるような気がして、潰すことも払いのけることもせず、どこに行くのか見守っている
「シャイナリス様」背後から声を掛けたのは、腹心の部下キャシス・カプラーンだ
男にしてはやや高い声質だが、優しさを感じさせるこの声をシャイナリスは好んでいた
「隊舎にロンティン様がいらしております」ロンティンは、デラ族の獅子狩り勇士であり、酋長ポントンの跡を継ぐ者と言われている重要人物であった
シャイナリスはゆっくりと立ち上がると、キャシスに続いて隊舎の方に歩み出す
帝都アトランティカでは、剛剣のシャイナリスの渾名で呼ばれることが多いが、この土地の蛮族には黒獅子のシャイナで通っている
シャイナリスの所属する武征軍キヌラ駐屯第1中隊の隊舎は、東都キヌラをぐるりと囲む石造りの防壁の南西にあり、南北の大門を守るように第2中隊の隊舎が、北東にある
ロンティンは律儀に隊舎の入口に立っており、傍らに弟のタムランもいる
デラ族の戦士らしく、二人は長身の自分たちよりさらに長い2ダート半もある長穂の槍と、同じ長さの黒褐色の棒を持ってきている
それを見たシャイナリスは、この兄弟は今日もまた模擬試合に来たんだなと思って、にやっと笑った
黒髪に黒い瞳、頬から顎にかけて黒いひげを生やしたシャイナリスは、デラの二戦士に負けず劣らずの1.9ダートの長身を誇る
デラの戦士とはっきり違うのが、肌の色以上に分厚い胸板と、筋肉が盛り上がっている腕や脚だ
比べるとロンティンは、背丈こそシャイナリスを上回っているものの、全身はスマートであり黒く輝く手足もほっそりしている
弟のタムランは、デラの男の平均身長よりやや高いが、兄に比べると一層ほっそりしている
さらに目立つ槍は、長穂と言われる通り槍全体の1/3ほどが、鋭利な穂先になっている
彼らが持って来た試合用の黒褐色の木槍も、穂先に相当する部分は表皮を削って白い木肌を見せている
シャイナリスの笑顔を見た兄弟は、黒い肌に引き立つ白い歯をにかっと見せて、親愛の情を示す
2025年02月27日
黄金剣のジャミカル24 双剣のドドリアスM
思いがけない遁走の速さに驚いたレムルイスは、それでも楯と長槍をしっかり持ち直すと、急いで刺青の男を追いかけた
二人の強敵を、ほぼ制圧しかけていたドドライアスは、こんなときこそ思いがけない攻撃を受けることがあることを、これまでに積み重ねた戦闘の経験で知っていた
そのため、一気呵成に勝負を決しようとする前に、半呼吸間を置いて周囲の空気に異常が無いか、確かめることは半ば習慣化した動作であった
そして、その繊細な用心深さがドドライアスの命を救った
空気を切り裂く矢羽根の風切る音に、体が反応して身を捩った左肩に矢が突き立った
その間隙を突いて、血まみれになっている大男を助けながら、長剣を吹き飛ばされた口髭の男が「オマエツヨイ。オレ、マタカナラズタタカウ。オレハ、マルネルスキ。オマエダレ?」訛りが強いが言ったことはわかる
「俺はドドライアス」「ドドリアス。カナラズ、マタタタカウ」それだけ言うと、大男に肩を貸して、意外に素早く遁走する
左肩に突き立った矢を、右手でへし折りながら、次の矢に身構えるドドライアスの眼に、長楯と長槍を構えたレムルイスの姿と、矢の尽きた長弓と弯曲した刀を持った赤毛の男が、身を翻して灌木の間に駆け込んだのが見えた
*
この日の小競り合いで、ナツラ村守備隊は、タンダンとガンボルトスを失い、隊長のドドライアスとデライウスは矢傷を負い、見張台に居たガイドルスは右目に矢傷を負い、見張台から飛び下りて足を骨折している
そして、砂漠から来た敵三人は、手傷こそ負わせたものの、いずれも取り逃がすと言う惨憺たるものだった
二人の強敵を、ほぼ制圧しかけていたドドライアスは、こんなときこそ思いがけない攻撃を受けることがあることを、これまでに積み重ねた戦闘の経験で知っていた
そのため、一気呵成に勝負を決しようとする前に、半呼吸間を置いて周囲の空気に異常が無いか、確かめることは半ば習慣化した動作であった
そして、その繊細な用心深さがドドライアスの命を救った
空気を切り裂く矢羽根の風切る音に、体が反応して身を捩った左肩に矢が突き立った
その間隙を突いて、血まみれになっている大男を助けながら、長剣を吹き飛ばされた口髭の男が「オマエツヨイ。オレ、マタカナラズタタカウ。オレハ、マルネルスキ。オマエダレ?」訛りが強いが言ったことはわかる
「俺はドドライアス」「ドドリアス。カナラズ、マタタタカウ」それだけ言うと、大男に肩を貸して、意外に素早く遁走する
左肩に突き立った矢を、右手でへし折りながら、次の矢に身構えるドドライアスの眼に、長楯と長槍を構えたレムルイスの姿と、矢の尽きた長弓と弯曲した刀を持った赤毛の男が、身を翻して灌木の間に駆け込んだのが見えた
*
この日の小競り合いで、ナツラ村守備隊は、タンダンとガンボルトスを失い、隊長のドドライアスとデライウスは矢傷を負い、見張台に居たガイドルスは右目に矢傷を負い、見張台から飛び下りて足を骨折している
そして、砂漠から来た敵三人は、手傷こそ負わせたものの、いずれも取り逃がすと言う惨憺たるものだった
2025年02月01日
黄金剣のジャミカル24 双剣のドドリアスL
相手の疲れを見て取って、ドドライアスはここが勝負と気を込めた右剣の一撃を見舞った
カッシィィーンンと激しい音を立て、長剣が弾け飛んで、離れた処にある岩に当って火花を飛ばす
長剣の男は獲物を失った己の手を、驚き呆けた顔をして見つめている
その間隙をついて、残った力を振り絞った大男が、ドドライアス目がけて棍棒を振り下ろす
そんな攻撃は先刻承知のドドライアスの左剣が、動きに合わせて斜めに払いのけると、棍棒の軌道は逸れ、地面に激しく叩いて大男の利き手を痺れさす
一方、レムルイスとガンボルトスは息を合せて、敵の長弓射手の隠れている藪にじりじりじりと近づいている
長弓を射ようとして二度姿を見せかけたが、その都度デライウスが弓を射かけるので、隠れ場所に釘づけにされている
しかし三度目は、叢の別の場所から身を乗り出して、一番邪魔な短弓射手のデライウスを狙い撃ちした
矢は真直ぐ飛んで、矢をつがえた瞬間の射手の左肩に突き立ち、ぎゃっと声を上げてデライウスは引っくり返った
それを横目で見つつ、長弓射手の潜む藪に短槍を構え、軽快な動きのガンボルトスが一気に突撃した
遠距離攻撃の射手ならば、手元に飛び込めたら殺ったも同然とみたガンボルトスは、思いがけず弯曲刀の反撃を受け、かろうじて突き出した短槍の柄をすぱっと切り飛ばされ、反動で尻もちを突きながら、敵の姿を眼に捉えた
赤毛と顎髭、胸板になにやらまじないのような絵柄が彫られた精悍な男の右の手に、三日月のような形の銀色に光る弯曲刀があり、それが斜めに振り下ろされるのが見えた直後、視界が自分の血で赤く染まる光景が彼の最後の記憶になった
ガンボルトスより十数歩遅れて走り込んで来たレムルイスは、相棒が屈強な相手に切り倒されたのを見て、楯を構えるのも忘れて、長槍を横振りにして敵の姿を目がけて打ち払らった
血の滴る弯曲刀を構え直した刺青の男は、新たな敵の持つ武器の長さを目測して、一瞬後ずさると見せて、素早く身を屈めながら、レムルイスの足元に飛び込もうとする
その攻撃を防いだのは、レムルイスの長楯だった
眼の端を素早く動く影を見た途端、直感的に足元が狙われていると感づいたレムルイスは、長楯をさっと地面に降ろして、足への攻撃に対処できた
重ねた薄板に、帝国東部の大草原にいるサイの皮を張った縦長の楯は、軽いのに丈夫で、長槍を組み合わせた槍戦士には相性が良く、ドドライアスがわざわざ帝都で購入して、レムルイスに装備させたものだった
サイの皮の表面を滑った弯曲刀を持ち直すと、刺青の男はさっき放り出した弓と矢を空いた方の手で拾い上げると、踵を返して一目散に走り出す
カッシィィーンンと激しい音を立て、長剣が弾け飛んで、離れた処にある岩に当って火花を飛ばす
長剣の男は獲物を失った己の手を、驚き呆けた顔をして見つめている
その間隙をついて、残った力を振り絞った大男が、ドドライアス目がけて棍棒を振り下ろす
そんな攻撃は先刻承知のドドライアスの左剣が、動きに合わせて斜めに払いのけると、棍棒の軌道は逸れ、地面に激しく叩いて大男の利き手を痺れさす
一方、レムルイスとガンボルトスは息を合せて、敵の長弓射手の隠れている藪にじりじりじりと近づいている
長弓を射ようとして二度姿を見せかけたが、その都度デライウスが弓を射かけるので、隠れ場所に釘づけにされている
しかし三度目は、叢の別の場所から身を乗り出して、一番邪魔な短弓射手のデライウスを狙い撃ちした
矢は真直ぐ飛んで、矢をつがえた瞬間の射手の左肩に突き立ち、ぎゃっと声を上げてデライウスは引っくり返った
それを横目で見つつ、長弓射手の潜む藪に短槍を構え、軽快な動きのガンボルトスが一気に突撃した
遠距離攻撃の射手ならば、手元に飛び込めたら殺ったも同然とみたガンボルトスは、思いがけず弯曲刀の反撃を受け、かろうじて突き出した短槍の柄をすぱっと切り飛ばされ、反動で尻もちを突きながら、敵の姿を眼に捉えた
赤毛と顎髭、胸板になにやらまじないのような絵柄が彫られた精悍な男の右の手に、三日月のような形の銀色に光る弯曲刀があり、それが斜めに振り下ろされるのが見えた直後、視界が自分の血で赤く染まる光景が彼の最後の記憶になった
ガンボルトスより十数歩遅れて走り込んで来たレムルイスは、相棒が屈強な相手に切り倒されたのを見て、楯を構えるのも忘れて、長槍を横振りにして敵の姿を目がけて打ち払らった
血の滴る弯曲刀を構え直した刺青の男は、新たな敵の持つ武器の長さを目測して、一瞬後ずさると見せて、素早く身を屈めながら、レムルイスの足元に飛び込もうとする
その攻撃を防いだのは、レムルイスの長楯だった
眼の端を素早く動く影を見た途端、直感的に足元が狙われていると感づいたレムルイスは、長楯をさっと地面に降ろして、足への攻撃に対処できた
重ねた薄板に、帝国東部の大草原にいるサイの皮を張った縦長の楯は、軽いのに丈夫で、長槍を組み合わせた槍戦士には相性が良く、ドドライアスがわざわざ帝都で購入して、レムルイスに装備させたものだった
サイの皮の表面を滑った弯曲刀を持ち直すと、刺青の男はさっき放り出した弓と矢を空いた方の手で拾い上げると、踵を返して一目散に走り出す
2024年12月24日
黄金剣のジャミカル24 双剣のドドリアスK
前方を見ても、射手の姿らしき人影は見えない
楯に突き立っている矢の長さと、矢羽根に目が行ったのは、デライウス自身が弓兵だからだ
こいつは、真直ぐ遠くに飛ぶ矢だ、と束の間感心したが、すぐに次の矢の飛来に備え、身を低くして構える
そこで、レムルイスとガンボルトスの妙な姿勢に合点がいった。この長い矢を避けているんだと
デライウスは、背中の半弓と矢筒を地面に降ろし、持っている短槍を地面に突き立てて、弓兵の役目に変る
「俺が弓で狙うから、二人は飛んで来る矢に注意しながら、前進して、相手の弓使いを追い出してくれ!」
レムルイスとガンボルトスが分かったと言う風に、槍を持った手を上げ下げした
二人が楯を構えてそろそろ前進し始めると、ひゅっと長矢が飛んで来て、短槍を持つガンボルトスの楯の下に出ている脚をかすめて地面に刺さる
その瞬間、灌木の間からちらっと見えた人影に向かって、デライウスの矢が飛ぶ
さっと敵が隠れた辺りにデライウスの矢が落ちたが、手応えは無い
半弓で射る矢は、長矢より早く失速し、放物線を描く。デライウスは「くそつ」と悪態を吐く
その隙を衝くように、黒尾羽の長矢が飛来して、左腕に括り付けられている小楯の縁を割り、デライウスの右眉を削って血を吹かせる
これにはデライウスの弓兵魂が燃え上がり、身を伏せながら、自分を射た相手がさっと灌木の陰に身を潜めたのを目に焼き付け、その敵に向かって斜め方向にじりじり進み始める
自分たちに矢が射かけられた後、デライウスが矢を敵に向けて放ち、逆に狙撃されたのを見て、レムルイスとガンボルトスは互いの距離を開きながら、敵の射手の隠れている方向に身を屈めながら、ゆっくり進み出す
一方、ドドライアスはその双剣をますます俊敏な動きで操り、棍棒を振り回す大男と大剣を軽々操る男を、守勢に追い込んでいて、長矢を射かけて来ていた敵はどうやら、村から駆け付けて来てくれた部下たちの牽制で、ほぼ脅威ではなくなっている
それに、さすがの大男も棍棒を振り回した後、荒い息を吐くようになっており、手足の傷も随分増えて血だらけになっている
長剣の男は未だ意気軒昂で、銀色の線を描くような刃の攻撃は、鋭さを失っていず、今や一騎打ちの様相を呈している
それでもドドライアスの双剣は、左右のどちらの剣でも、受けも出来るし攻撃も出来るので、両手で重い長剣を振る相手も、徐々に疲れを見せ始めていた
楯に突き立っている矢の長さと、矢羽根に目が行ったのは、デライウス自身が弓兵だからだ
こいつは、真直ぐ遠くに飛ぶ矢だ、と束の間感心したが、すぐに次の矢の飛来に備え、身を低くして構える
そこで、レムルイスとガンボルトスの妙な姿勢に合点がいった。この長い矢を避けているんだと
デライウスは、背中の半弓と矢筒を地面に降ろし、持っている短槍を地面に突き立てて、弓兵の役目に変る
「俺が弓で狙うから、二人は飛んで来る矢に注意しながら、前進して、相手の弓使いを追い出してくれ!」
レムルイスとガンボルトスが分かったと言う風に、槍を持った手を上げ下げした
二人が楯を構えてそろそろ前進し始めると、ひゅっと長矢が飛んで来て、短槍を持つガンボルトスの楯の下に出ている脚をかすめて地面に刺さる
その瞬間、灌木の間からちらっと見えた人影に向かって、デライウスの矢が飛ぶ
さっと敵が隠れた辺りにデライウスの矢が落ちたが、手応えは無い
半弓で射る矢は、長矢より早く失速し、放物線を描く。デライウスは「くそつ」と悪態を吐く
その隙を衝くように、黒尾羽の長矢が飛来して、左腕に括り付けられている小楯の縁を割り、デライウスの右眉を削って血を吹かせる
これにはデライウスの弓兵魂が燃え上がり、身を伏せながら、自分を射た相手がさっと灌木の陰に身を潜めたのを目に焼き付け、その敵に向かって斜め方向にじりじり進み始める
自分たちに矢が射かけられた後、デライウスが矢を敵に向けて放ち、逆に狙撃されたのを見て、レムルイスとガンボルトスは互いの距離を開きながら、敵の射手の隠れている方向に身を屈めながら、ゆっくり進み出す
一方、ドドライアスはその双剣をますます俊敏な動きで操り、棍棒を振り回す大男と大剣を軽々操る男を、守勢に追い込んでいて、長矢を射かけて来ていた敵はどうやら、村から駆け付けて来てくれた部下たちの牽制で、ほぼ脅威ではなくなっている
それに、さすがの大男も棍棒を振り回した後、荒い息を吐くようになっており、手足の傷も随分増えて血だらけになっている
長剣の男は未だ意気軒昂で、銀色の線を描くような刃の攻撃は、鋭さを失っていず、今や一騎打ちの様相を呈している
それでもドドライアスの双剣は、左右のどちらの剣でも、受けも出来るし攻撃も出来るので、両手で重い長剣を振る相手も、徐々に疲れを見せ始めていた
2024年12月04日
黄金剣のジャミカル24 双剣のドドリアスJ
巨大な棍棒をぶんぶん振り回してくる大男は、脛に受けた傷など物ともしていない風だった
この男ひとりなら問題はないが、もうひとりの両手剣の男が呼吸を合せて攻撃してくるの捌きながら、ドドライアスは正直手を焼いていた
加えてもうひとつ気になっているのが、長射程の矢を射る男の存在だった
岩と灌木の陰から、時折姿を現しては、ひょうと黒羽の長い矢を射ているのが、視界にちらつく
射た先にいるであろう部下たちの安否が気になるが、今は鋭さを増した両手剣の切っ先を躱すことを優先せざるを得ず、いつもの冷静さを失いかけているのが、我ながら情けないと臍を噛む
そんな一瞬の隙を見てか、両手剣が袈裟切りの旋風になってドドライアスを襲う
かろうじて右手の長剣で払いのけ、続けざまに左手の中剣を振おうとすると、大男の棍棒が頭上から襲い掛かってくる
それよりもドドライアスが驚いたのは、大男も両手剣の刺青男も、何回も手傷を与えているのに、少しも弱らずに闘いを続けていることだった
一方、背中に大門が閉まる音を聴きながら、デライウスは全速力で走っている
この開拓村に来て以来、目にするものは開拓村で暮らしている家族や、全員でたった24名の駐屯部隊の仲間たちと、後は荒地に棲む小動物とみすぼらしい鳥と恐ろしい毒蛇や毒虫ばかりの世界だった
今年27才になったばかりのデライウスにとって、決して望ましい環境ではなかったが、それでも村人の子らと遊んでいると、俺もここで可愛い娘と一緒になって、子が育つのを見守る暮らしもいいな、などと思っていた
早足が自慢のデライウスだったから、走り出して少しすると、前方にレムルイスとガンボルトスが妙な姿勢でいるのが見えた
おまけに彼らの近くには、タンダンらしき小柄な人影が、地面に突っ伏しているのも見える
こりゃ大ごとだ、っとデライウスの緊張が高まったところで、しゅっとなにかが飛んで来た
思わず反射的に左腕に持っている小楯を突き出すと、タンっと乾いた音がして、黒羽の長矢が突き立った
この男ひとりなら問題はないが、もうひとりの両手剣の男が呼吸を合せて攻撃してくるの捌きながら、ドドライアスは正直手を焼いていた
加えてもうひとつ気になっているのが、長射程の矢を射る男の存在だった
岩と灌木の陰から、時折姿を現しては、ひょうと黒羽の長い矢を射ているのが、視界にちらつく
射た先にいるであろう部下たちの安否が気になるが、今は鋭さを増した両手剣の切っ先を躱すことを優先せざるを得ず、いつもの冷静さを失いかけているのが、我ながら情けないと臍を噛む
そんな一瞬の隙を見てか、両手剣が袈裟切りの旋風になってドドライアスを襲う
かろうじて右手の長剣で払いのけ、続けざまに左手の中剣を振おうとすると、大男の棍棒が頭上から襲い掛かってくる
それよりもドドライアスが驚いたのは、大男も両手剣の刺青男も、何回も手傷を与えているのに、少しも弱らずに闘いを続けていることだった
一方、背中に大門が閉まる音を聴きながら、デライウスは全速力で走っている
この開拓村に来て以来、目にするものは開拓村で暮らしている家族や、全員でたった24名の駐屯部隊の仲間たちと、後は荒地に棲む小動物とみすぼらしい鳥と恐ろしい毒蛇や毒虫ばかりの世界だった
今年27才になったばかりのデライウスにとって、決して望ましい環境ではなかったが、それでも村人の子らと遊んでいると、俺もここで可愛い娘と一緒になって、子が育つのを見守る暮らしもいいな、などと思っていた
早足が自慢のデライウスだったから、走り出して少しすると、前方にレムルイスとガンボルトスが妙な姿勢でいるのが見えた
おまけに彼らの近くには、タンダンらしき小柄な人影が、地面に突っ伏しているのも見える
こりゃ大ごとだ、っとデライウスの緊張が高まったところで、しゅっとなにかが飛んで来た
思わず反射的に左腕に持っている小楯を突き出すと、タンっと乾いた音がして、黒羽の長矢が突き立った